「地形の思想史」読んだよ~
2020/06/22/17:56
明治の自由民権運動から戦後の新左翼運動までの
100年近い日本の思想史を、
地形から考えてみようという旅の本。
以前読んだ、三浦しをんさんとの共著「皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。」が結構良かったんで、読んでみました。
第1景、「岬」とファミリーでは、
現上皇さま&現上皇后さまのことなんだけど、
昭和のころの「皇太子ファミリー」が毎年のように訪れた岬について。
当時の皇室の立場とか昭和のあの頃の家族のありかたなど、いろいろ考察してます。
とにかく全体的にすごく懐かしい。子どもの頃、なんとなくニュースで見ていた「皇太子ファミリー」が思い出される。あのころ半ズボンはいてた「浩宮さま」が、今では天皇陛下なんだから・・・しみじみ時の流れを感じるよ。当時は「風物詩」とか「事象」のような感覚でブラウン管越しに見ていたわけだけど、大人になってこれを読むと「人間」らしさを感じるなあ。
第2景、「峠」と革命では、
日本共産党の山村工作隊について。
興味なさ過ぎてこのあたりのことは全然知らなかったけど、個人的にはこの章が一番面白かった。令和の日本とは全然違う国の話を聞いてるようだった。
それと、市民が喧々諤々の議論の末に作ったという「五日市憲法」のくだりは、ちょっとイイなって思った。本来そういう過程を経た憲法が欲しいとこだよね。
第3景、「島」と隔離では、瀬戸内海に浮かぶ2つの島について。
ひとつは、かつてハンセン病患者を隔離するための島だった岡山の「長島」。
そして、海外から持ち込まれる病原体を、1カ所に集めて消毒するための陸軍検疫所があった「似島」。
戦前、「衛生」という考え方が、神道からくる「清浄」と合わさって、
「陛下の治める国土は清浄でなければならない」という思想になっていき、
こうした極端な隔離につながり、差別を助長したこと。
コロナ禍の今、ちょっと考えさせられるところもあったよ。
春、どんどん発症者が増加していた頃、広島市ではコロナの軽症患者のためにホテルを借り上げることになった。ところが近隣住民の猛反対があって、結局断念することになったんだよね・・・。これって上記の2島の問題と根っこのところで何が違うのか? ホテルを借り上げ=隔離政策なんじゃないか? 近隣住民の反対は差別意識なのか?・・・どこまでが正しくてどこまでが良くないか。わたしには難しくてわからない。でも歴史は繰り返すというし、このことはよく考えておくべきことかも。もちろん上記の2島の話は激しく極端だから、同列にするわけにはいかないけれども。
第4景は、「麓」と宗教。
富士山麓にはなぜ宗教施設が多いのかを、実際に訪ねて考察。
富士山麓に施設をおく意図ってなんとなく富士山のすごいイメージを取り込んでいくような、そいういう方向性だろうなって予想するよね?
実際、各宗教とも大体そんな感じだったんだけど、唯一、同じように富士山麓に施設があったにもかかわらず、オウムだけがちょっと毛色が違ってた。それが印象深かった。
第5景は、「湾」と伝説。
オトタチバナヒメっていう、日本神話に出てくる女性がいるんだけど、ヤマトタケルの奥さんなんだよね。神話の話ではヤマトタケルが東征したとき、東京湾を船で渡って対岸の上総(千葉)へ向かおうとしたんだけど、海が荒れて渡れなくなった。その時に海へ身を投げて犠牲になる事で、海神の怒りをしずめたのがオトタチバナさんなのです。
今だったら「あちゃぁ・・・身を投げちゃったの?」って思うとこなんですが、戦前は「戦いに赴くダンナのために犠牲となった妻(尊い!)」っていう美談だったらしい。近隣には彼女を祀る神社など伝説の残る場所があって、そんなゆかりのある各所を訪ねつつ、戦前戦後の日本神話の扱いについて考察しています。
第6景は、「台」と軍隊。
ちょっと小高いところにある住宅地につけられがちな地名「○○台」。実は、戦前は「臺」という難し~い漢字で書かれ、しかも軍事関係に縁の深い字だったという。かつて「相武臺」と呼ばれた陸軍士官学校跡地は、現在はアメリカ軍基地「キャンプ座間」になってる。その基地の中にある相武臺の名残を見学しに行く内容となっていて興味深かった。
第7景は、「半島」と政治。
全国で最後の最後まで女性市議が出なかった町。鹿児島県垂水市。そこへ行って、初の女性市議となった方に話を聞く。鹿児島のなかでも大隅半島の男尊女卑の気風を地形や交通事情・政治史などから考察してる。それにしたって大学進学率の男女差の話はあからさまだった。・・・ホント女性市議たちには頑張っていただきたいって思ったよ。
こんな感じで、普段読まないようなジャンルだったけど、今の自分ともリンクする近代史がベースとなっていることもあって、手に取ってしまうと結構読み込んじゃいましたね。面白かったです。特段気になるようなイデオロギー臭みたいなのは感じなかったです。

